MidNightLadies

立体忍者活劇 天誅 忍凱旋

評者:MET/評価:★★★★★

 洋モノのPCゲームには血生臭い殺戮描写を売り物にしている作品が多々あります。GORY GAMESとでも呼ぶのでしょうか?本当のところはよく知りませんが、ともかく日本ではあまり認知されていない分野です。

 そうした範疇に属する稀有な国産ゲームと私の認識している作品が「立体忍者活劇 天誅」です。敵と「闘う」のではなく、影に潜み、その暗中から密かに相手の命を奪う事を本命とするその内容は、必殺技の生々しい描写とあいまって独特の凄惨過酷さを醸しています。その内容に加え「忍者ネタ」ということもあって海外でも好評を得、そのいわば海外遠征の成果が盛り込まれた改良版が、この「忍凱旋」。しかしこれは単なる改良版どころかほとんど新作並に手を加えられている力作となっています。主な変更点は以下の通り。

 その他にも、モデリングキャラのグラフィック修正、カメラワークの変更、アイテム「五色米」の効果追加、敵行動パターンの追加・強化、等々。

 このうち当該物件としての価値に大きく寄与するのは「追加女性ボス」「外国語音声」「自作」の3つ。

「兄上ぇ〜っ!」

 追加されたボスの1人、明智田鶴は、薙刀を振るう女武芸者です。ほっそりとした若い娘で、裾捲りに(たすき)掛けのたいでたちが凛々しい。この面にはボスが2人いて、彼女と戦うのはなんと冒頭。自分が守る関所の門前で夜稽古をしているところに主人公が現れ戦闘に突入という展開。プレイヤーキャラは「渋いお兄さん」力丸と「生意気な小娘」彩女の2種類ありますが、どちらかによって対決の雰囲気は相当に異なります。前者だとベタベタに浪花節なのに対して、後者は相当にキツい応報が楽しめます。死に際「あ、兄…上えぇぇぇ…*注1」と絞り出す悲痛な叫びがなかなか。

お楽しみ満載のザコくノ一

 しかしやはり何と言っても注目はザコくノ一でしょう。「くノ一」と「般若」の2種類いますが、このうち般若は得物*注2によって更に小太刀(二刀流)と手甲鉤の2種に分かれます。ちなみにくノ一は小太刀のみ。小太刀装備の般若は外見が異なるだけで、動きその他はくノ一と全く共通です。音声は全者共通。
 まずゲーム中で最初に登場するノーマルくノ一。黒っぽい忍装束(濃い海老茶。なんだかかなり汚らしく見えます)は長袖、下はミニ。中が覗けないのでキュロット風の袴にも思えますが、まあなにせ大雑把な造型なので…。腰に締めた細帯の背中に2本の小太刀を羽交いに差してます。特徴的なのは膝上まであるロングブーツ。全体としてみれば1つの典型と言える外見です。襟元が大きく開いてるんですが色気は皆無(笑)。谷間が無いのはなぁ…。顔はすっぴんなんですが、これまた不細工。しかし髪型のせいか××田××ルに似ているような気がしてしょうがないんですがファンに殺されそうなので内緒です。
 一方の般若は精鋭部隊のくノ一という設定らしい。けれども小太刀を装備した種類は同じ得物のノーマルくノ一と能力的な違いはありません。肝心の装束は黒の半袖で、下に着けた鎖帷子が胸元に覗いています。鬼面を模した帯留めがチャームポイント(いや個人的にバックルが大好きで…)。メッシュの脚には膝までのロングブーツ。その名の通り般若の面を着けていますが顔の下半分は露出しています(見た感じ死ね死ね団を思い出します)。個人的にはノーマルよりこちらの方が色っぽくて好み。このゲームのキャラは目の表現が悲惨なのでそこが仮面で隠れるのも好都合。それにその方が下っ端らしいですよね。
 二刀を操る小太刀系の動きは華麗。普段歩く姿もお尻フリフリして女っぽかったり、なぜか時折意味もなくとんぼ返りする行動設定のやつもいて楽しい。その一方、手甲鉤装備の般若はまるきり化物。ぐっと低く腰を落し、ガニ股の奇怪な送り足で進む様子は怪しさ大爆発!小太刀と違って鉤爪は収納不可なので、尚のこと見た目がおどろおどろしくなります。戦闘に入ると更に正体不明。落したままの腰になんとも言えない絶妙な「より」をかけながら爪で相手を威嚇する姿などは夢に見そうなほどです(私にとってはいい夢なんですけどね。この体勢を後下方至近距離から眺めてると何とも言えない気分になります。あははは…)。いや〜しかしこの人、完全に女、否、人間を捨て去ってませんか?(笑)。基本的には同じ格好をしているのに小太刀系とはえらい違いです。
 プレイヤーキャラを発見すると「いたぞ!」と叫んで襲いかかって来ます(個人的に好きな戦場は屋根の上。縦横に走りつつ斬り結ぶ様はいかにも忍者っぽくてカッコイイ!)。死闘の最中にときおり入る挑発や威嚇の動作も(あんまり忍っぽくないけど)イイ感じです。見事に斃せば「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ…」と断末魔の絶叫を張り上げながらくずおれていきます。この時、大量の鮮血が噴出。このゲームはさすがというか出血の効果音(血しぶきが地面に落ちる音)があり、それがビタビタビタビタ…とうるさいほどなのが印象的(リアルというより「モータルコンバット」みたいな感じですね)。倒れて動かなくなると骸の下に血溜まりがドバーっと…。しかしこのゲームの醍醐味は何と言っても「必殺」にあります。

必殺!

 このゲームで最も特徴的なのは「隠密」、つまり敵の目から隠れる事です。その状態で斬りつけると相手の体力とは無関係に即時殺す事ができます。これが「必殺」です。通常の戦闘と違い騒ぎにならないので隠密状態を保ったまま敵を斃す事ができます。敵が減れば結果的に見つかる危険性が減るので、隠密と必殺はいわば表裏一体であると言えます。
 この必殺において至近距離で攻撃を繰り出すと特別な動作で敵を仕留めます。要するに「必殺技」ですね。自キャラによって別々に用意され、更に敵との位置関係で3種類に変化。もっとも、このゲームの場合「必殺」というのは文字通りですから技が異なろうと「威力」は同じです。要は見た目の問題。

必殺技一覧

力丸(♂)

 動作の要所に「間」があって、それが全体に生々しい残酷さを醸し出しています。

首供養
 背後から繰り出す技。相手の喉を掻き切る典型的な殺し方。喉元から鮮血を吹き出させた敵はガックリと膝を着き、それからうつ伏せに倒れる。後から腕を回されて押えつけられた時、僅かに身じろぎしながら両手を喉元にもっていく動きが燃えます。
胆膾
 側面から繰り出す技。相手の首根っこを掴み、胸のど真ん中を刀で串刺しにした後に思い切り引き抜く。その勢いで相手の身体は一回転した後仰向けに叩きつけられる。少しガニ股気味に脚を開いたみっともない姿勢の(むくろ)は全必殺技中一番好み。
死人担
 敵と背中合せで繰り出す技。骨を砕いて無力化したうえ、うつ伏せに地面へ叩き付け、最期に首を真後ろに回して仕上げる荒業。ゴキッゴキッという骨の砕ける音がモロ「必殺系」の香り。最後の首折りは動作に一瞬の溜めがあって、やられる方はさぞかしイヤだろうなーと思います。でも悲鳴を上げないところをみると既に気絶してるのかな?それはそれでイヤでしょうが(笑)。そう流血しそうもない技なのに、死ぬとやっぱり血溜まりがドバーッ(笑)。
彩女(♀)

 技が素早く動きが大きいので力丸より派手。力丸と違い骸が全て仰向け。

紅隈
 背後から2本の小太刀を交差させ、相手の首筋を切り裂く技。殺られた相手はきりもみしながら勢い良く仰向けに倒れる。回転力の余韻で全身が最後にゆさりと揺れるのが◎。
紅差指
 横合いから小太刀2本を相手の胸に突き刺し、そして引き抜く。敵は前につんのめって倒れ、必死に起きあがろうとしたところで力尽き仰向けに絶命。自分の身に何が起こったか分からぬまま死ぬという感じが良い。
紅小灰
 背中合せ。敵の肩に乗って両足で首をガッチリ極め、そのまま背後に倒れ込んで脳天捻り逆落とし。やはり首があさっての方向に向いちゃいます。ちなみに骸は仰向け。同じ素手技の死人担に比べると随分あっさりした印象。

 これらの必殺技は一連の動作が全て終了するまで操作不能になります。つまり拘束時間があるわけです。それに対して「技無し」の必殺は一瞬。だから実は必殺技を使わない方が敵に見つかりにくかったり…。特にこれらの技は全て強制的な体捌きを伴うので足場の悪いところで仕掛けると下に落ちたりします。そこが奈落だったりすればもちろん即死!では必殺技を使う意味は?もちろん通常操作では不可能な華麗なる動きで殺しを魅せる事です!

 個人的に好きなのが「半」必殺。敵が自分を見つけると同時に殺す事。発見から戦闘態勢に入るまでには一瞬の間があり、その前に攻撃すると見つかったにもかかわらず相手は即死します。完全な必殺の場合、悲鳴は抑えられてしまいます。他の敵に気取られないように殺しているのですから当然ですが、つまり戦闘で斃さないと「絶叫」は味わえません。ところがこの半端な必殺の場合、瞬殺でありながら通常時の悲鳴をあげるのです。これが実に何とも、殺られた彼女たちの驚愕と、なす術のない無念さを一番感じさせてくれて最高です(ただし当然の事ながら殺した気配を周囲に気取られてしまいます。このあたり実に細かい仕組みですね)。ただしタイミングが微妙で少しでも遅れると通常戦闘に入ってしまいます。

ヘボやられいろいろ

 とまあ人生の幕を凄絶に降ろして楽しませてくれる女忍者のみなさんですが、他にこんなのもあります。

「うわあああああぁぁぁ…!!!」ボボボボボボボボ…

 ゲーム中、様々な場所にある「火」。燭台とか篝火とか焚き火とかいろいろありますが、これらは単なる背景ではなくて触れると体力が減ります。敵も同じ。
 相手を上手くハメると同じ燭台に何度も炙られて最後は焼け死にます。蝋燭の火で焼け死ぬというのもアレなんですが「ウッ」「ウッ」っと何度も苦悶の呻きをあげながら同じ行為を繰り返し、悲痛な断末魔を張り上げながら死んでゆく彼女たちにはある種のけなげさすら感じさせられます(笑)。しかもこの死に方って斃された後もずーっとぼーぼー燃え続けて悲惨。それを見下ろしながら「まさに飛んで火に入る夏の虫よのぅ」と、なんとなく悪役気分。

「うわあああああぁぁぁ…!!!」バシャバシャバシャバシャ…

 このゲームのマップ要素には川や海などの「水」があります。水音を気取られるので落下や進入には注意が必要です。しかし主人公よりも実は敵にとってこの水が大きな脅威。なぜなら、敵は何故か速攻で溺れ死ぬから。カナヅチなんて生易しいもんじゃありません。水辺で足を踏み外して岸に取りつくことすらかなわないんですから!もちろんくノ一や般若の皆様も同様です(またこのお二方が登場する面には両方とも川があるんですよね…)。情けなく悲鳴をあげつつしばし水面でもがいたのち没します。「わたし忍なのになんでええええ〜っ!?」「こんな死に方あり〜!?」という無念の声が聞こえてくるようです。これはきっとたたりとか妖怪の仕業なのでしょう。

 それにしてもヘボい!ヘボ過ぎる!ヘボやられの極致!ハードな死に様の他にこんな無様で恥ずかしい最期を味わえるとは美味し過ぎます(笑)。

We are Japanese Ninja girls!

 さて、既に紹介した通り、この「忍凱旋」は日本語を含め4カ国語に対応しています。これは本来「翻訳」なわけですが、ここで肝心なのは言葉の意味とはあまり関係ない部分、そう、「悲鳴」です!これが実に楽しい。各国毎に味わいがかなり違います。特にイタリア語やフランス語は英語と比べてかなり耳慣れないせいもあって新鮮です。例えばフランス語の「ハヤーッ!」という掛け声(笑)。でももちろん肝心なのは悲鳴や呻き。首供養された時の「アゥ…」という鼻にかかった声(仏)など個人的にはたまりません。イタリアくノ一は全体にギャーギャーうるさく、とても忍とは思えません。同じ首供養でも「アー!」とか叫んだりして、おまえそれじゃ密殺にならんじゃないか(笑)。でも情けなくて好きですイタリアも。一方、本命と思われる英語が今一つなのは残念。「ウゥ」とか「オゥ」とか、そんなくぐもった呻きが多く、リアルかもしれませんが色気には乏しいかと。ただし断末魔の最後に声がかすれる感じはなかなか良し。そして日本語も素晴らしい力演。断末魔の絶叫など正に「血の滴るような声」です。ただ、死人担でほとんど声がないのは抑え過ぎ。外国語では苦悶の呻きを上げてくれるのに…。
 公式攻略ガイド*注3によるとドイツ語やスペイン語にも対応させる予定だったとか。実現していたらぜひ聞いてみたかったものです。

虎の巻

 …それは忍凱旋で追加された面自作機能です。もちろん自分の好きなように敵を配置できますから、くノ一だらけ、般若だらけの配置も可能です。ボスの明智田鶴も配置できます(ボスなのでもちろん1人だけ)。ただしキャラクターと背景を合わせたマップの構成要素は本編のゲーム面に対応して分割されており、キャラと背景もそれに従って組み合わされます。この組合せは「雰囲気」という項目で選択します。よってくノ一・般若の共演でボスに田鶴をすえるというようなマネはできません。残念ながら3者は各々別の面に登場するので「虎の巻」でも異なった「雰囲気」に分かれています。また、最初から全ての「雰囲気」が使えるわけではなく、終了させた面に対応したものしか使えません。たとえばくノ一の登場する「雰囲気」の「町」を使いたければ2面を終了させなければなりません。
 また「虎の巻」には本編と比べて以下のような制限や相違があります。

敵の配置人数は全種合計で8人まで。
 ちょっと少ないように思われますが、本編に比べてマップもずっと狭いので丁度良いのでしょう。
死体が消えてしまう。
 斃した敵の亡骸は本編ではずっとその場に残りますが、虎の巻ではその場を離れると消えてしまいます。時間経過を見て消しているわけでもないので斃したその場を動かなければずっと残ってますけどね。
ボスから必殺をとれる。
 本編中のボスは全てイベントを経て戦闘に入るので「必殺」は一切不可能です。ところが虎の巻ではザコ同様に必殺で斃す事が可能になります*注4田鶴から必殺をとれるなんて一見よさそうに思えますがこれには落とし穴が…。
 虎の巻で使える資源は全て本編からの流用です。つまり虎の巻の為に新たに加えられた資源はないのです。つまり本編には存在しない「ボスに対する必殺」の場合、ザコと違って必殺専用の声や動作がありません。だから無言でぶっ倒れるだけ。もちろん必殺技も出せません。田鶴に首供養してあげたいのに〜っ!
 また、通常戦闘の場合でも本編では倒したと同時にイベント処理へ移行してしまうため実はボスにはやられた時の悲鳴も無いのです。普通に攻撃を受けた時の短い声だけで死にます。これまた非常に残念。「兄上〜っ!」とか叫んでくれよぅ。
言語が選択できない。
 どの言語を選択しても虎の巻は日本語のみ。これはガッカリ。

 その他にも「アイテムは配置できない」「所持アイテムは固定(鉤縄、手裏剣、まきびし)」「マップが狭い」「マップの構成単位が大きい」とかいろいろあります。それでも楽しくいじってたんですけどね…秘密のアレを知る前は…。

禁断のオマケ

 忍凱旋には非公開の機能も色々と追加されています。いわゆる「裏技」。その内容は非常に多岐にわたっていますが、中でも凄いのは「デバッグモード」。裏技でありながら実に虎の巻に匹敵する、ある面ではそれ以上に強力な機能です。例えば以下のような事が可能。

 主に面改変に関する機能を列挙しましたが、これで全部ではありません。その他にも「ゲーム面選択」や「イベントテスト」など様々な事ができます。
 むろん非公開なので何の説明もありませんし、プログラムが暴走する事もしばしばあります。しかしながら虎の巻と違ってマップの自作こそできませんが、それを補ってありあまるほど多くの利点があります。
 実行方法は載せませんが、ネット上に公開されているので調べればわかると思います。

女装忍者

 ちょっと本題から外れますが、ゲーム中に「変化の術」というアイテムが登場します。これは一定時間敵や町人に化けて敵を欺く術で、変化している間は敵の目前にいても見つかりません。この時何に化けるかはプレイしている面と使用キャラによって決まります。力丸が9面で変化する相手はなんと般若。「いったいあの服はどうやって調達したのだろう?」とかいろいろ想像してしまいます(視覚的演出は超常的な雰囲気なんですけどね)。

ある意味ゲーム系やられ物件の理想

 以上のように素晴らしいゲームなのですが大きな弱点もあります。それはキャラの造型。対戦格闘と違い、数多くのキャラを表示しなければならないのでキャラ1体あたりに割けるポリゴン数は限られます。しかも主人公を優先して割り振られますから、いきおいザコの造型は見劣りのするものとなってしまうのです。プレイステーションという今となっては旧世代の機種という事もあり、単純に見た目で評価してしまえば相当つらいものがあります。
 しかしながらプレイ行為という一点に絞れば「天誅」は文句なく類稀な傑作です。濃厚で生々しい死の描写、細心の注意を払って敵を1人1人仕留めてゆく充足感。なんというか、「殺す」という行為の密度・重みが違います。大勢のザコをなぎ払う豪快さはありませんが、それとはまたぜんぜん違った興奮があり、それは今のところ私にとってこのゲームが唯一なのです。

 最後に付け加えると、純粋にゲームとして見ても「天誅」は大変に優れています。「隠密」を中心としたシステム周りや驚異的に凝ったマップ、雰囲気たっぷりのグラフィックにBGM、最高にイカした登場人物とシナリオ。遊び心のある冴えた感性が作品全体から感じられます(これが続編では雲散霧消してしまっているのが悲しい…)。
 開発元のアクワイアには、いつか再びこんな素晴らしいゲームを作って欲しいと心から思います。