突撃

 激しい衝撃と共に脱出カプセルの外殻が砕け散る。この世のものとも思えない混乱が収まってから、キラキラと散乱する破片の中でクラーク大佐は起き上がった。身体のどこにも異常がない事を確認すると周囲を素早く確認する。少し離れた場所にコーツ少尉のカプセルが落ちていた。少尉も今起き上がろうとしている。
「おい、生きてるか?」
「は、だ、大丈夫であります。ただ、ちょっとびっくりして…」
「屠殺される豚みたいな声が通信機から聞こえたぞ」
 大佐はそう言って笑った。コーツは少しむっとする。
「あれは恐いでありますよ。自分は破裂緩衝式の脱出装置は初めてでありますから。あれじゃ自由落下と変わらんであります!…自分はパラシュートの方が好きであります」
「パラシュート撃ちはヴィーラン共にとって格好の娯楽だ。俺ならその的になるのは御免だな。さあ、そんな事より戦闘準備だ!やつらすぐに現場を確認しに来るぞ!」
 2人は緊急発信機の電波を頼りに四散した機体の残骸へ辿りついた。すぐさまファイアボックスの確認をする。それは幸いにも全く無傷だった。大佐は思わず口笛を吹く。
「凄いもんだな!これだけの爆発でびくともしないなんて。あの脱出カプセルといい、今度の新装備はよくできてる」
「でも肝心の新型機はあっさり落とされたであります。カプセルだって…」
「不意を討たれちまったんだ、しょうがないさ。それにしてもまさかこんな所で攻撃を受けるとはな。…もしかすると我々の知らない基地があるのかもしれん」
 そう言いながらクラークは新式のファイアボックスを開ける。緊急時の携帯武器一式を収めた箱だ。もう1つ、食料や医薬品などを収めたライフボックスもある。
「こりゃ、凄ぇ!CE社の万能レーザー小銃が2丁。超小型多目的ミサイル『ウルトラホーク』ガンランチャー付き。それから…反応爆弾!?こんなもんまで…」
「大佐!この銃、ショットカウントが1万までありますよ」
「対人のレベル1出力でスポット照射ならな。連続なら60分だ。ミサイルは全部で20発…こりゃ俺たち2人だけでちょっとした戦争ができるぞ」

 クラークは敵の接近ルートを想定し、コーツと2人で迎撃の準備をした。
「来ましたよ!」
 双眼鏡を覗いていたコーツが低く警告する。
「敵識別!ヴィーラン軍武装偵察隊軽装歩兵!目標2!」
「武装は?」
「拳銃を確認、おそらく低出力レーザーかショックガンですね。他に目立った装備はありません」
 浅い谷あいを歩いて来る2体の生物は一見すると人間の少女に見える。全身に密着したレオタードのようなスーツに身を包んだ姿は、まるで近所の学校から体操の授業を抜け出して来た女生徒のような、おおよそ現実とはかけ離れた雰囲気である。スカイブルーの毛髪が陽光に美しく映えているが、それこそ彼女たちが異星人である証左だった。地球征服のため人類を絶滅を企む凶悪な宇宙人、ヴィーランである。
「やつら全く無警戒ですね…」
「こっちが死んでると思い込んでるんだろう。それより2人っていうのは気になるな。数を頼みのやつらにしては少ない…周囲に伏兵はいないか?」
「なんとも…周りの茂みが割に深いため判然としないであります」
「連中は体が小さいしな。体温が低いから赤外線も効かん。まぁ、なるようにしかならんか…」
 クラークは腹ばいのまま小銃を構える。コーツもそれに倣う。
「俺は左、おまえは右、同時に殺るぞ」
 2人は敵との距離を数十メートルにまで引き付けた。
「撃て」
 引き金が絞られると敵の女兵士2人の体に紅い血煙の花が咲く。
「きゃあぁ…!」
「あぁっ!?」
 苦痛より驚愕を感じさせる悲鳴を短く上げて敵は斃れた。まるで糸が切れたかのようなあっけなさである。


「電波探知機!」
「反応ありません!」
「仲間はいないのか?…よし、とりあえずあの死体を調べるぞ」
 クラークとコーツは用心深く死体に接近して行った。敵兵は1人はうつ伏せ、1人は仰向けに倒れていた。クラークは片方の死体をつま先で仰向けにひっくり返す。
「さてと…」
 手袋をはめた細い腕を取り、その手首を調べる。そこには何かの表示装置といくつかのボタンがあった。クラークが素早く操作するとそこに様々な表示が次々と現れる。
「…さて、どうなるかな?…コーツ、辺りの様子に気をつけてろよ」
 そう言ってクラークがある操作をしながら小銃を構える。谷の上の方から小さな電子音が聞こえるのとレーザー小銃の引き金が引かれるのはほぼ同時だった。スポット連射の激光が草むらをなぎ払う。
「ぎゃあああっ!!」
 突如悲鳴が上がり、がさがさと草地の斜面を転げ落ちる音がした。
「大当たり!」
 2人が谷の斜面に分け入るとほどなく敵兵の姿を認めた。異星人の胸には熱線で開けられた穴がぽっかりと口を開けている。
 クラークは死体に近寄ると焼けた銃口を敵兵の股間に押し当てる。ジュッと音がして白い蒸気が上がる。
「どうやら本当に死んでるみたいだな」
 コーツが嫌な顔をする。
「大佐、その死亡確認はいささか酷いと思うであります」
「この方法を教えてくれたのはこいつらさ。自分たちの仲間が同じ事をされれば奴らも行いを改めるかもしれないだろ?」
「うう、こんな顔して、こいつらそんな事までするんでありますか?自分は大事なモノを焼かれるのはイヤであります」
 泣きそうな声になるコーツ。
「だったら何としても生き延びる事だな」


「それにしても図にあたったな!もしやと思ったんだが、音声呼び出しのままになってた」
 クラークは笑った。
「では、あれは通信機の呼び出し音!?」
「情報部はいい仕事してるぞ。士官にはちょくちょく資料が配られるだろう?電話帳みたいに分厚いやつが。一般的な敵の装備品については相当詳しく載ってるぞ。目を通しておけ。こいつら俺たち地球人の事を下等生物とバカにし切ってるからな、あんな事は思いもよらないのさ」
「でも危ないところでありました。なんでこいつは我々を撃たなかったんでありますか?」
「自分たちと同じ手を俺たちが使っているかも知れなかったからさ。こちらが先に撃った時点でこいつは敵の存在を知った。だがそれが俺たち2人で全員とは限らないだろ?それを見極めようと思ったのさ。だから事態を仲間に知らせもせず、じっと様子を窺っていたわけだ。通信機を使ったら電波探知機で自分の存在が知れるからな」
「え?じゃあまだ他にもこいつらの仲間が!?」
「当たり前だろう?徒歩で移動してるとでも思ってるのか?近くにこいつらを運んできた車両があるはずだ。仲間の異変に連中が気付く前にそいつを見つけるぞ!」
 2人は地図で周囲の地形を分析、敵兵の来た方角を合わせて検討し、敵兵員輸送車の位置に見当をつけた。

 その装甲車は小さな小川のほとりに堂々と停めてあった。甲虫を思わせる丸みを帯びた独特のフォルムは、それが地球の産物でない事を示している。
 周囲には数名の女兵士がたむろしている。一応は見張りなのだろうが、深呼吸したりストレッチしたり、仲間同士で談笑したりすっかりリラックスした様子である。
「運がいいな。予想的中じゃないか」
「ヴィーランの小型軽装甲車でありますね。あれにはたいしたセンサー類もないから、こうして隠れていれば簡単には見つからんでしょう。絶好のチャンスであります。ミサイルで吹っ飛ばしてやりましょう!」
「いや、あの車は欲しい。それに連中の秘密基地についての情報もな。見ろ、後部ハッチが開きっ放しだ。あそこから中に入れる」
「しかし、相手が全部で何人か判らないであります。こんど撃ち合いになったらこちらが不利でありますよ」
「とにかく今は待て。俺に考えがある…」
 腹ばいになって草陰から様子を見て30分ほど経過した時、敵が動いた。
「あ!大佐!見てください!」
 装甲車の後部ハッチの中から1人のヴィーラン兵が顔を出し、仲間に何事か告げると空気が一変した。全員が慌しく車中に戻る。
「…このまま車を出すようなら残念だがミサイルだ」
 ライフル型の小型ランチャーを構えるクラーク。だが女兵士たちはすぐに中から出てきた。全員、小さな体に不釣合いなほど大きな火器を携えている。
「ひゅう!連中めちゃくちゃ殺気立ってるな」
「制圧ロケット砲なんて持ってるやつもいるでありますよ。シャレにならんでありますぅ〜っ」
「落ち着けよ。引き金を引かせなきゃどんな武器だって同じさ」
 車内から出てきた敵兵は結局5人だった。彼女たちはきびきびした動作で行軍を開始する。クラークたちがやって来た方向である。2人の潜んでいるすぐ前を異星人たちが通り過ぎて行く。
「これで8人か…すると中にはもうほとんど残ってないな」
「あんな小さな車両に8人以上も乗ってるなんて凄いすし詰めでありますね」
「…コーツ、これから俺はあの中に入る。俺に何かあったらミサイルでふっとばせ!いいな!」
「あっ!大佐!?」
 コーツが止める間もなくクラークは飛び出した。
 クラーク大佐は素早く装甲車に近付いて行く。その手には先刻斃した敵兵から奪った拳銃が握られている。この車両の死角を熟知していた彼は斜め後方から接触を試みる。だが車体後部に達しようとしたまさにその時、ハッチを閉めようと女兵士が中から出てきた。
「なっ!?」
 驚きのあまり開閉用の取っ手に手をかけたまま一瞬呆然と凝固する敵兵。クラークはにっこりと微笑みかける。
「やあ、こんにちは」
 敵が腰の拳銃に手をかけた時、クラークの銃は既に火を吹いていた。
「ぐぁっ!」
 被弾の衝撃で車内へ吹っ飛ぶ女兵士。間髪をいれずクラークが突入する。そのあと中から激しい物音や悲鳴が聞こえ軽装甲車の車体が僅かに揺れ、そして静かになった。固唾を飲んでミサイルランチャーを構えているコーツ。引き金にかけられた指に力がこもる。だが聞こえてきた声は馴染みのものだった。
「おーいコーツ、終わったぞ!」


 車内に踏み込んだコーツが見たものは、客室に転がる敵兵の死体だった。腹の真ん中を見事に撃ち抜かれている。
「コーツ!そいつを外に捨てて来い」
 奥の運転室から声が聞こえてくる。
「わかったであります」
 死体を抱え上げようとしたコーツだったが、背骨が寸断されているので中央がグニャリと曲がってしまい、やりにくい。
「うう、気持ち悪い…」
 仕方なく立たせた姿勢で抱き合うように抱える。脱力した細腕が肩にぐたりとかかり、しなだれかかる頬がコーツのそれと触れる。もともと体温の低いヴィーランの肌は既に冷やりとしていた。
「ひゃっ!」
 頭一つ分以上コーツの背が高いので女兵士の両足は完全に宙ぶらりんである。その脚をぶらぶら揺らしながら死体が運ばれて行く。コーツはそれを近くの草むらに捨てた。まるで汚物を扱うような乱暴さである。でたらめな方向に手足が投げ出され腰の所でくの字に曲がった様は壊れた操り人形のようであった。


「やはりこの近くにやつらの基地があるそうだ」
 コーツが戻ってくるとクラークは1人のヴィーラン兵を尋問していた。
「捕虜でありますか?」
「ああ、こいつに基地までの案内をさせる。よろしく頼むぜお嬢ちゃん」
「わ、わかったわ。だから助けて、お願い…」
 異星人の女兵士は恐怖にすくみあがっている。
「おまえがおとなしく言う事をきけば命だけは助けてやる。我々は投降した者の命を奪うようなマネはしない。それがたとえ敵であってもだ」
 その時、操縦室にある通信機の呼び出し音が鳴った。捕虜から目を離さずクラークがマイクを取る。そのとたんスピーカから敵兵の激した声が聞こえてきた。
『大変よ!やっぱり地球人どもは生きてるわ!3人とも殺されてる!ちくしょう、絶対に見つけ出してやっつけてやるわ!』
「悪いがそれは無理だな」
『お、おまえは!?』
 クラークが手に持ったリモコンのボタンを押すと、死体の下に埋めてあった反応爆弾の起爆装置が作動する。無線の音声に一瞬ノイズが入り、完全に沈黙するやいなや外からドーンという衝撃が伝わってきた。
「なんてことなの、たった2人の地球人に…」
 ヴィーランの捕虜が唇を噛みしめる。
「さあ、これで片付いた。あとは巣をつぶせばこの辺りの害虫駆除は終わりだ。コーツ、味方に連絡をとるぞ」
「了解であります!」
 これから始まる激戦の予感に2人の兵隊は静かに昂ぶるのだった。

 美少女宇宙人来襲!というのをやってみたくて昔描いた素描の一部を撮り込んで着彩したものです。数点の落書きを読み物仕立てにしてみました。文章は掲載にあたって初めて書いたもので、最初からつながりを考えて描いたわけではありません。このサイトを見ている人なら雰囲気から既にお分かりかもしれませんが原点はマゾーンです。でも、だいぶ「ロリ」入ってます(笑)。初期「レモンピープル」のようなあの生臭〜いエロティックさを狙いました(と言って解る人がどれだけいるのか??)。
 判りにくいんですが三角形の開口部は剥き出しではなく透明なビニール素材で覆われています。なんで?って言われると困ります。エッチだからです!(笑)。こういう意匠はエロ系作品の特権ですねえ。元ネタというわけではありませんが、阿乱霊の海戦機シーゴッドに登場する敵兵の密着スーツが鋭い露出ぶりで印象に残ってます。


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