光跡が空を裂くたびに、熱せられた空気が膨張して鋭い音を立てる。しかし光りの刃はその切っ先をかわされ、次々と床や壁に突き刺さった。まるで小さな花のように白い煙がパッと咲いてはたなびく。
「くそっ、なんてヤツなの!?」
 女狙撃手は歯噛みした。スコープの中の標的はまるで黒い影のように閃き、火線をことごとくかわしてゆく。
「なんとしてもヤツを殺せ!奥様をお守りするのよ!」
 ぴったりと全身に密着したスーツに身を包んだ娘たち。いつもはひらひらした可愛らしいお仕着せを着た侍女たちだが、ひとたび主の危機となれば精鋭の女兵士に早変わりする。タイトな戦闘服に優美な曲線を際立たせた肢体。どの娘も虫も殺せぬような美少女であるが、その実力は軍の特殊部隊に匹敵すると言われる。マダム・シャレードの血塗られた生涯の中で死のかいなが彼女に迫った事が幾度かあった。しかしそれらは全てこの武装した女召使いたちによって退けられたのである。
 格納庫の巨大な巻上げ機に隠れた影。そこへ嵐のような集中砲火が浴びせられる。影の正体は黒ずくめの男だった。
「くそババァの武装侍女部隊か。顔に似合わずエグい攻撃するぜ」
 そう言って狼のように獰猛な笑みを浮かべる。
「どうやら連中を片付けなきゃ先には進めないらしいな」
 脇のホルスターから光子ピストルを抜き放つと彼は安全装置を解除する。陽電子発生器が作動し、電磁加速器のシリンダー内に収束されて行く。
「さあ今度はこっちの番だぜ…」

「アゥっ!!」
 硬質樹脂の砕け散る鋭い音と共に短い悲鳴が漏れ、女狙撃手は全身をビクリと震わせて銃を取り落とす。胸の風穴に咲く真紅の花…。
「キャシー!!」
 すぐ隣にいた仲間が絶叫する前で金髪の若い娘は目の光を失い、力なく前のめりに倒れ込む。落ちた銃が固く冷たい音を立てて床の上を滑る。尻を突き出して冷たい床に顔面を突っ伏した仲間の無様な死に様を見た狙撃手が逆上して銃を構える。
「くっ!よくもキャシーを!」
 既に半数近くの味方が斃されている。狙撃兵は血走った目で照準器を覗き込む。
「あ…」
 ガンクロスの向こうに銃を構える男が見えた。その銃口は真っ直ぐ自分に向けられている。引き金にかけられた指が凍りついた一瞬、栗色の髪を振り上げて娘が大きく仰け反る。驚愕の表情が張りついた顔の眉間には円形の銃創が小さく口を開けていた…。

 なぜ狙撃兵なのか?これには元ネタが実はあります。それは「闘士ゴーディアン」。古いTVアニメです。この中で主人公が多数のスナイパーを相手に銃撃戦を挑む場面があるのです。このスナイパーは全員男なのですが、当時のタツノコアニメにありがちなボディフィットスタイルでした(ちなみに主人公もそうです)。んで、主人公は敵の光線銃がエネルギーをチャージする音を頼りに1人1人撃ち倒してゆくのです。これが「火線によるコミュニケーション」という趣で印象に残ったのでした。そんな事を何となく思い出して描いた落書きに色を着けたのがコレです。もちろん「これでスナイパーたちが女だったら…」と思った事は言うまでもありません(笑)。

 狙撃って言うのは遠く離れた場所から一方的に敵を狙う攻撃です。「ゴルゴ13」や「ジャッカルの日」のようにハードボイルドでかっこいいイメージもありますが、狙撃手自身が主人公の場合はともかく、やられ役として登場する場合は大体において「陰険」という描かれ方が多いですね。安全な場所から命を狙う、そんな優越的立場での微笑が崩れ去って驚愕と恐怖にひきつる、そんな一瞬が魅力でしょうか。

 今回は静的な銃撃戦で絵も文も淡白でしたが、なんか昔のタツノコっぽい風味が出たのでは?と自分では妙に満足しております。


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