鋼鉄の閃光J

 薄明るい部屋の中で、何かを殴りつけるような、鈍いこもった音が響く。
「ご、ぐはぁ!」
 男が、身体の中からしぼりだすような、うめき声を上げる。
「強情な男ね。これだけ痛めつけられても、口を割らないなんて…」
 制服姿の少女が小首をかしげ、呆れたようにつぶやく。
「はっ、頑固さと頑丈な所が俺の取り柄でな」
 男は、かすれた声で軽口をたたく。

 その男は、金属製の椅子に座っていた。いや、座っているというより、身動きの出来ないように身体を椅子に固定されている。男の太い筋肉質の腕は、後ろ手にロープで縛られており、同じく丸太のように太い足も、金属のプレートによって足首を固定されている。男の髪は、短く刈り上げられた金髪で、がっちりとした骨格の顔、鷹のように鋭い茶色の瞳をしている。
 男の顔と剥き出しの上半身には、いくつもの傷口と打撃のあとが残されており、かわいた血痕が、ベッタリと付着していた。
 その周りには、男を取り囲むように、制服姿の少女達が十数人立ち並んでいた。
 少女達が身に付けているのは、セーラー服である。白をベースに紺の襟、赤いスカーフというシンプルなタイプだ。はいているスカートは、太ももの一番上の部分まで露出している超ミニスカートだ。肉ずきのよい健康的な足からは、ほのかな色気が漂っている。白く細い首筋には黒いリボンを巻いており、リボンには金の刺繍で「B・F」というアルファベット書かれている。
 その制服少女達の一人が、男の分厚い胸板に蹴りをたたき込む。
「うごぁ!」少女の蹴りに、男が苦悶のうめきを上げる。それほど重い蹴りではなかったが、今までにかなりのダメージを受けている体には、キツイ攻撃だった。

「そろそろ話してくれても、いいんじゃない? あなたが、「ウインド」の工作員だって事はわかっているわ。ここには、何の目的で進入したの? それと「ウインド」の本部の所在地、組織の構成情報とか、貴方の知っている事を色々教えて頂けないかしら?」
 制服少女が、艶のある笑顔で男に語り懸ける。
「おいおい、あんたら何か勘違いしてないか?俺は「ウインド」なんて組織、聞いたこともなけりゃ、見た事もないんだ」
「だったら、何でこの高校に潜入したのかしら?」
「ハハ! そりゃ男だったら一度は女だけの楽園に入って見たくもなるもんさ。まあ、好奇心に勝てずに、つい入っちまったんだ」
 男は、豪快に笑うとそう言いはなつ。
「そう…まだ話す気には、ならないようね」
 制服少女の細めた目が、冷たく光る。
「話すも何も、事実を言ってるだけだぜ」
 男が呆れたような顔で言う。
 男が言った瞬間、少女の強烈なひじうちが、男のこめかみに叩きつけられる。「うぉっ!」鈍い打撃音がして、男の頭が左右に揺さぶられる。
「チッ! 問答無用かよ」
 男が吐き捨てる。
「いいわ。あなたが自分から、喋りたくなるように痛めつけてあげる」
 少女がそう言うと、別の制服少女が男の腹部に、膝を突き入れる。
「ぐはぁ!」男が顔を苦痛に歪ませ、身体をくの字に曲げる。制服少女はそのまま、男の身体に、二発、三発と連続して、蹴りを入れる。ミニスカートがめくれ上がり、汗に湿ったパンティが露になる。
 男の身体から飛び散る汗や血の飛沫が、少女の白い顔に付着し汚す。少女は舌を伸ばすと口の周りに付いた血を美味しそうに舐め取る。
「どう?あたしの蹴りの味は。味わってもらえたかしら?」
 少女は荒い息をつきながら、男に喋りかける。制服少女は、額にうっすらと汗をにじませている。目がきらきらと輝き、ほおは薔薇色に上気している。
「喋るなら早いうちに、全部しゃべっちゃった方がいいわよ。素直に教えてくれれば、命だけは助かるかもしれないよ」
 うなだれたまま、動かない男に向かって少女が甘い声色で語りかける。
 その声に反応したかのように、男がゆっくりと顔を上げる。
「ああ、味わらせてもらったぜ。だが、まだまだだな。そんなんじゃ食前酒にもなりゃしない」
 憎憎しげに言うと、凄みをました顔で、少女達を睨みつける。
 その迫力に、制服の少女達は一瞬身体をひるませるが、目を妖しく光らせると再び獲物に狙いをつける。
「そう、お望み通りとっておきのご馳走を、プレゼントさせていただきますわ」
「期待してるぜ」
男は微笑んだが、内心は違っていた。(大きな事を言ったが…実際の所、そろそろ限界だな。このまま行くと死ぬか、ばらすかしちまいそうだ。後は組織が救出部隊を送ってくれるのを待つだけだが、それまで持つかわからんな。まあ…来るとしたら奴が派遣されるだろう。長年の腐れ縁だからな。)
 男は、途切れそうな意識を必死に保ちながら、思いを巡らせる。

-同時刻-

「ドカッ! バキィ!」肉を殴るような、乾いた打撃音が重く響く。
 蛍光灯が白く光る、狭い廊下の中で、男と制服の少女が闘っている。いや、闘っているというより、制服の少女の方が、一方的に攻撃を受けていた。
「う、うう……ハァ、ハァ」
 制服の少女は、折れた鼻から鼻血をあふれさせながら、苦しげに喘ぐ。少女の頬は真っ赤に腫れあがり、白いセーラー服は血で染まっている。その少女に向かって男が、止めの一撃を放つ。制服少女の無防備な脇腹に、うなりを上げる右フックが深くめり込み、男の拳に柔らかい肉の感触と、肋骨のへし折れる鈍い感触が伝わる。
「ぐうぁぁ…!がは、がはぁ!」
 男が脇腹から拳を抜き出すと、制服少女は口から大量の血を吐き出しながら、身体を震わせる。折れた肋骨が肺に突き刺さったのだろうか、呼吸をしようとする度に、苦しげに身体をくねらせる。少女は、そのまま意識を失うと、その場に重い身体を横たえる。
 その男の周りには、同じように身体を血に染めた制服の少女達が、四人倒れていた。
 男は用心深く辺りの様子をうかがっていたが、納得すると警戒を解く。「ふぅ…やっと終わったか…」男が軽く息をつき、表情を緩める。

 男はなかなかハンサムな顔立ちをしている。太く力強い眉毛と、強靭な意志を感じさせる青い瞳が印象的だ。線のくっきりとした頑丈そうな顎と、厚い唇の回りには、まばらに髭が生えている。無造作に伸ばされたくしゃくしゃのブロンドの髪は、額に巻いた赤いバンダナで、まとめられていた。濃紺のコンバットジャケットに包まれた身体の筋肉は、黒豹のようなしなやかさと鋼のような強靭さを秘めている。袖から見える腕は、浅黒く日焼けしており、修羅場をくぐり抜けてきたであろう事を物語る無数の傷が刻まれている。背中にはナップサックを背負っており、足には茶色のコンバットブーツを履いている。
 男の名前はJ、いや、Jと言うのはコードネームだ。本名は、ジャック=フィールド。Jは「ウインド」と言う組織に所属している特殊部隊隊員だ。「ウインド」は、「ブラックファング」と言う世界的犯罪組織に対抗するために、世界各国が共同で立ち上げた秘密組織だ。
 集められる人材は、各国のトップクラスの戦闘力、特殊技能を持った者達だけだ。Jはその中でも、最高の実力を持った隊員である。鍛え上げられた拳は、厚いコンクリートの壁をもぶち抜き、陸上競技をやらせればオリンピックで、メダルも取れるであろう身体能力を保持している。肺活量は、常人それを遥かに超えるだろう。組織の中では「モンスター」もしくは「超人」の異名で恐れられており、単独任務を得意としていた。
 犯罪組織「ブラックファング」は、破壊活動、要人暗殺、軍事兵器や麻薬の密売、人間の誘拐から人間売買いまで、あらゆる犯罪に手を染める最悪の犯罪組織だ。しかも一国の軍隊さえ壊滅させることの出来る強力な軍事力を有しているために、各国も自国で犯罪が行われていても、うかつに手を出せない。後の報復が怖いからだ。そのために世界各国が共同で、どの国にも所属しない秘密の組織「ウインド」が結成された。しかし、多発する犯罪に手が回っていないのが現状だ。
 Jの今回の任務は、日本で行方不明になっている隊員を探し出し、救出することだ。
 行方不明の隊員は「リック=ウォルターズ」と言う男で、Jと同じ米国の国籍だ。Jとは共に死線をくぐり抜けた中でもあり、気の合う親友でもある。今回の任務は、Jが自ら志願した。
 リックは、一週間ほど前に日本政府の以来で、ある女子高校の調査をしていた。この女子高は、犯罪組織「ブラックファング」の戦闘員養成所であると言う噂が流れていた。実際この地域を中心として、集団殺人事件、現金強奪、誘拐などが多発しており、犯人はいずれも、集団の少女達だったらしい。
 リックからは、三日前に「この女子校は「ブラックファング」の巣窟だ。さらに本格的な調査を開始する」という電子メールを受け取って以来連絡が、途絶えている。おそらく、この女子高に捕らえられているか、殺害されているのだろう。前者なら、一刻の猶予もならない。今この瞬間も生命の危機にさらされているのだ。自然、Jもいいようのない焦りを覚える。

「しかし、一体リックはどこに捕らえられているんだ。学校中歩き回ってみたものの手がかりさえありゃしない。それにこの学校にいた奴らといえば、今倒した四人と、ここに来るまでに始末した八人に過ぎない。ほとんどもぬけの空だぜ」
 Jが忌々しそうにぼやく。
「まったく、こんなことなら一人ぐらい口を割らせるように、捕獲して置くべきだったな。まーたやり過ぎちまったぜ、くそッ!」
 Jがここまでに倒してきた少女達は全員、息の根をとめられているか、生きていても口を聞けない状態になるまでの攻撃を、身体に叩き込まれていた。相手が女だろうが、Jは「ブラックファング」の連中には、容赦なかった。
 「ん!?」考えこんでいるJの耳に、人が喋る声と足音が聞こえてきた。どうやらこちらに向かって歩いているようだ。
(ほう、向こうからノコノコ出てきてくれるとはありがたい。よし、あいつ等に聞くとするか)
 Jは素早く判断すると、倒れている少女達の身体を、近くの物陰に放りこむ。荷物でも放り投げるような乱暴さだ。作業を終えると、Jは通路の曲がり角に身を潜ませて、少女達が近かずいて来るのを待つ。
近つ゛いてくる足音と共に、少女達の会話が聞こえる。
「由香ぁー、この間の議事堂占拠作戦スリルあったよねー」
「やっぱ、七海もそうだった?あたしもすっごい興奮しちゃった。「ターゲットの政治家達以外みんな殺っちゃっていい」て言う指令だったからね。久々に暴れちゃった」
「そうそう!由香って逃げ惑う政治家捕まえては、容赦無く首の骨へし折ってたからね。すごい迫力だったよ」
「だって、あの感触って堪らないないんだもん。そう言う七海だって、かなりえげつなかったと思うよ。瀕死の奴見つけては、止め刺して回ってたからね」
「そうだっけ? まー細かいことは気にしない、気にしない。組織も身代金ガッポリ貰って、私達もおこぼれにありつけるみたいだから、今度新しい服買いにいこうよ」
「そうねー組織から支給されるのって、この制服と戦闘服だけだからね。非番の時ぐらいオシャレしたいよね」
二人の少女は楽しげに話している。しかし、少女達の可愛らしい外見からは、想像もつかない話の内容だ。
(そうか、この前の事件もこの高校の奴らの手によるものだったのか。政治家が80人以上も虐殺されるえげつない事件だったが…。それにしてもまったく、へどが出るぜ!奴ら人の命を虫けらの様にしか思っちゃいない。どうやら、悪の根は早めに刈り取らなければならないようだな。俺がまとめて掃除してやるぜ)
 Jの心の感情を表すように、凄みを増した顔つきになる。目は鋭く光り、表情が消えている。
 そのJの前を二人の少女が通過して行く。
 瞬間、Jは滑るように接近すると、内側の少女の鳩尾にパンチを突き入れていた。
「ウッ!?」少女の身体がのけぞり、そのまま気絶する。
「七海どうしたの?」
 もう一人の少女が、背後の異変に気がついて振り向こうとする。が、Jはそれよりも速く少女の背後に回り、身体を密着させるとゴツイ手で口をふさぐ。
「あんたには、用はないんだ。死んでくれ」
 Jはジャケットの内側から幅広のサバイバルナイフを引き抜くと、少女の柔らかい腹部に突き立てる。
「んむぅ!?ふぅぐうっ、んんー!!」
 少女は自分を襲った相手と、腹の激痛から逃れ様と必死にもがくが、Jの太い腕の前には無駄な努力でしかない。Jはさらに、鋭い刃を腹の中に押し進めてゆく。白いセーラー服がみるみるうちに鮮血で染まっていく。「ふうぅん!」少女は自分の中に突き入ってくる冷たい刃の感触に、身体を小刻みに震えさせる。刃は肝臓を裂いていた。少女はしばらく手足をばたつかせていたが、Jがナイフの柄をぐるりと掻き回すと、びくん! と大きく跳ね、動きを止める。
「ごぼぉ!ぐうっ!ぐうぅ…」その瞬間、少女の口が大きく膨張し、Jの手に生暖かい液体の感触が伝わる。少女は大量の血を吐き出すと、Jの身体にぐったりと倒れ掛かる。
 Jが少女の口から手を放し刃を引き抜くと、傷口から大量の血が溢れ出す。少女は自分のちで赤く染まる床の上に、崩れ落ちた。
「地獄でえん魔様に、お仕置きしてもらうんだな」
 Jは冷たく言い捨てると、血で濡れた手を少女のセーラー服で拭い、もう一人の少女の方に向かう。
 白いパンティを露にして、床に手足を投げ出している少女に歩み寄ると、後ろから細い首に腕を巻きつかせ、強引に引き立たせる。Jが少女の頬を軽く叩いてやると「うっ…」と呻き声を上げて目を覚ます。
「きゃっ!な、何!?あんた誰よ!放してよ!」
 少女が、Jから逃れ様と暴れ出す。
「大人しくするんだな。さもないとそこの奴見たいな目になるぜ」
 少女は、Jの言葉を聞いて、そちらに目を向ける。少女の目が大きく見開かれる。
「ゆ、由香ぁ!!」
 血の海に倒れている仲間を見つけると、驚愕の声を上げる。
「ああなりたくなかったら、大人しくするんだな。七海ちゃん…だっけ?」
「は、はい。わかりました。だからお願い殺さないで!」
「大人しく俺の質問に答えてくれれば、見逃してやるよ」
「な、何でも話すから、痛い事はしないで…」
 七海は恐怖に、身体を震わせる。密着したJの手が、七海の豊かな乳房に回されていたが、まったく気にしている様子はなかった。あるのは、死にたくない!という強烈な思いだけだ。Jの手に柔らかいマショマロのような感触と、動悸の早い心臓の鼓動が響いてくる。
「あんたいい身体してんな。こんな所で死んだらもったいないぜ」
「死にたくないですぅ…」
「じゃあ素直に話すんだな。ここに米国人の男が捕らえられていないか」
「米国人の男?あっ!そう言えば、2、3日前に実戦部隊の先輩達が、すごくガタイのいい男を捕まえて来たわ!凄く強かったらしくて、先輩達もかなりの人数が再起不能にされちゃった見たいだけど…」
「ガタイがよくて、凄く強い男か、こりゃ間違いないな。で、その男はどこに捕らえられているんだ、まさか殺されたって事はないよな?」
「う、うん。「ファング」様の命令で、「口を割らせるまでは殺すな」って言われてるから、まだ死んでないと思うよ。先輩達も、「久しぶりに痛めつけがいのある奴ね!」とか言って喜んでたしね。確か場所は…えーと、特殊校舎の戦闘訓練場だったと思うんだけど…」
 「ファング」とは、犯罪組織「ブラックファング」の首領の名前だ。正体は、一部の幹部にしか知らされていない。
「戦闘訓練場ねぇ…。物騒なモンのある学校だこと。そこには何人ぐらいの見張りがいるんだ? それと、妙に人が少ないが、どういう事だ?学校中回って見たが、お前を含めて14人ほどしかいなかったぞ」
「今日は秘密作戦実行活動の為に、実戦部隊の先輩達とサポートの訓練兵は、ほとんど出払ってるんです。残っているのは、尋問中の先輩達11人と、私と同じ見張りの訓練兵だけですよ。あっ!他のみんなはどうしたんですか…。まさか…」
「ご名答!他の奴らは、半年ぐらいの入院生活を送らなければいけないか、賽の河原を渡ってる頃だろうよ」
 それを聞いて、七海は泣き出しそうな顔をする。
「うぅ…!これだけ話したんですから見逃してくださいぃ…」
「それは七海ちゃんの心がけ次第だな。しかし、揃いも揃って外出中とは、好都合だな。そうでもなけりゃ、こうも簡単には行かなかったかもな」
 Jは嬉しそうに笑うと、しばらく思案する。
(どーも歯ごたえがないと思ったら、今まで倒したのは雑魚中の雑魚って訳か。リックの見張りは実戦部隊の連中らしいが、所詮は雑魚だ。十数人くらい訳はないだろう。ん?それにしても戦闘訓練場ってのは、どこにあるんだ。それらしい建物は見あたらなかったが)

 その時、七海は、Jが思案している隙を見つけて、左手の指にはめた指輪の宝石の部分を軽く親指で押す。一瞬の事だったので、Jはうかつにも見逃してしまった。それは、尋問中の仲間へのSOS信号だった。上手くいった事を知ると、七海は小悪魔のように微笑む。
(ドキドキしたけど、気付いてないみたいね。いい気でいられるのも今の内だけよ!先輩達に、八つ裂きされるがいいわ!)
「おい、戦闘訓練場はどこにあるんだ。この校舎にはなかったようだぞ」
「はい、重要な施設は、地下の特殊校舎にあるんです」
「地下か…。どうりで判らなかった訳だな。よし、そこまでの道案内たのむぜ」
 Jは七海の身体から手を離し、先に行くように促がす。
「妙な事は、考えるんじゃないぜ。怪しいと思ったら、俺の鉄拳が飛ぶぜ」
「まさか!?そんな事考えませんよ!じゃあ、私の後に着いてきて下さい」
(バーカ!もう遅いよ!)
 少女はほくそ笑みながら、Jを導いていく。

「ここが戦闘訓練場です」
エレベーターを降り通路を進むと、重そうな金属製の扉の前で少女が止まる。
「やっと着いたか…。随分地下にあるんだな。あのエレベーターのスピードは、まるで遊園地のアトラクション並だったぜ」
「そうですか?七海はもう慣れちゃいましたけど」
 そう言いながら七海は扉の横にある差込口にIDカードを刺しこみ、ポスワードを入力する。差込口のモニターに「ロック解除」の文字が現れる。
「さあ、どうぞ入って下さい」
 扉が開くと七海は、素早く中に入っていった。
「おい、おい何をそんなに急いでるんだ。じゃあ、お邪魔するぜ」
 Jもその後に続いて、扉の中に入ってゆく。
「うお!」中に入ったJが、驚きの声を発する。
 戦闘訓練場は、かなりの広い施設だった。TOKYOドーム並の広さだろうか。
 内部には様々なトレーニング器具の他に、陸上用のトラックレーン、アスレチック設備、自動販売機やシャワールーム、サウナ室まで完備している。壁には戦闘練習用のプロテクターや様々な武器が備えつけられている。

 Jが驚いたのは、その事ではない。Jを待ち構えるように、レオタード姿の少女達が待ち構えていたからだ。手には手首ぐらいまでの赤い篭手(こて)を付けていて、武器を持った少女も何人かいる。額には幅の広い純白のハチマキを巻いていて、まるで運動会に出るような格好だった。人数は11人くらいか、七海の言っていた人数と同じぐらいだ。その七海はレオタード娘達の後ろに控えていた。
「やっと来たようね。「ウインド」の工作員さん。歓迎いたしますわ」
 おさげ髪で、瞳の大きい黒目がちの少女が深ぶかとお辞儀する。
「ハッハー!随分と大層なお出迎えだこと。何で俺が来た事がわかったんだ?」
「七海が教えてくれたのよ」
 「ニコッ」と微笑むと、後ろにたたずむ七海の方を指差す。
「気付かなかったのが悪いのよ。間抜けな工作員さん♪千里先輩たちに殺られちゃえ!」
 にやりと得意げに笑うと、中指をつき立て、「ファックユー」のポーズをする。
「チッ!俺としたことが、ミスっちまったか」
 ボリボリと恥ずかしそうに、頭を掻く仕草をする。
(しかし、こりゃまた…。ずいぶんと色っぽい格好をしてやがる。身体つきも乙女の身体なんてもんじゃないな。たく!最近のお子様は発育よ過ぎるぜ!)
 Jの思ったように、少女達が着けている水色のレオタードは、随分と露出度が高く、少女達の肉付きの良い身体を隠しきれていない。
 このレオタードは「ブラックファング」の女子高生用の戦闘服だが、首領の「ファング」の趣味も反映されていて、かなりきわどいデザインだ。
 新体操のレオタードように一切飾り気がなく、むしろそれよりも露出度は高い。しかも、サイズがかなり小さい為か、少女達の身体にピッタリと張りつき、身体の凹凸(おうとつ)をすべて見せている。胸元は辛うじて乳首を隠すぐらいまで、上半身が露出していて、健康的な肩口と首筋が目にまぶしい。レオタードの横の部分からは、溢れそうな乳房が丸見えになっており、これから起こるであろう戦闘への緊張のためか、乳首が薄いレオタードを押し上げるように立っている。ほどよく肉が付いた腹部は、鍛えられた腹筋のラインをくっきりと見せており、へその窪みまでわかる。大きく張り出し、艶めいた桃尻は、Jの手にもあまるであろう大きさだ。左右の尻タブは大きく露出していて、その間の双尻の谷間には、レオタードががっちりと食い込んでいる。足には黒のハイソックスと黒の革靴を履いている。脂肪が程よく乗った太股とふくらはぎは、内に秘めた筋肉のばねを感じさせる。脂のよく乗った少女達の身体は、興奮のためピンク色に染まっている。

「それにしてもお前ら…随分とエッチな身体してるな。思わずグッっとくるぜ」
 Jは口笛を吹き、少女達の身体を隅々まで鑑賞する。
「いやらしい目で見ないで欲しいわね。この身体は、日々の厳しい鍛錬と健康管理の賜物よ。「ファング」様の為に命を懸ける私達にとっては、当然のことだけどね」
「しかし、その身体もここで散っちまうと思うともったいないな」
「私達を上で倒した連中と、一緒にしないで欲しいわね。「ブラックファング」日本校の女子生徒は、「くの一」としての訓練も受けているの。あんまり甘く見ていると大怪我するわよ」
「くの一?あの時代劇に出てくる女忍者の事か?」
「そうよ。私達ファング実戦部隊は、くの一としての戦闘能力を身体に叩き込まれているの。悪いけど貴方じゃ役不足かもね」
 少女が艶を含んだ瞳で、Jの顔を覗き込む。
「言ってくれるね。所で俺の相棒が、ここに捕まっている筈なんだが…」
「ああ、あの米国人ね!さっきまで、私達が可愛がってあげてたわ。でも、もう遅いかもね…。身体中の骨が折れてたし、血を大量に吐いた後、動かなくなっちゃったわよ。それでも助けに行きたいのなら、私達を全員倒すことね」
 少女が腰に手を回し、挑発するようなポーズをとる。
 その言葉を聞くと、Jの目つきが変わる。
「そうか…。リックがずいぶんとお世話になったみたいだな。お返しに俺の格闘術をお前らの身体の芯まで叩き込んでやるぜ!冥土の土産にするんだな」
 怒りに燃えるJの瞳が、レオタードの少女達に向けられる。
「あの世に行くのは貴方の方よ!」
 その声を合図に、レオタード娘達がJに襲いかかってくる。
「やあぁぁっ!」
 柔和な顔立ちのレオタ娘(レオタード娘)が牝鹿のような俊敏さで、Jに接近すると、手にした小太刀で斬りつけてきた。Jは身軽にスウェーバックしてレオタ娘の斬撃をかわすと、再び攻撃を仕掛けようと振り向くレオタ娘の顔面に、マシンガンのようなジャブを打ち込む。
「元気なお嬢ちゃんだこと!こいつは俺からのお返しだ!」
 「パシ、パシッ、パシィ!」と乾いた小気味よい音を立てて、電光石火のようなJのジャブが五発、レオタ娘の柔和な顔に次々とめり込んでいく。
「きゃうッ!!」
 レオタ娘の頭が大きく揺さぶられ、血痕が飛ぶ。柔和な顔は、早くも腫れあがり、頬には青アザが浮かんでいる。形の良い唇はザックリと切れ、血が滴り落ちている。レオタ娘の瞳が焦点を失う。
「うっ!?うあぁ…」
 手から小太刀がポロリと落ち、レオタ娘の上体がグラリと揺れる。
「こいつはメインデッシュだ!」
 崩れ落ちようとするレオタ娘の顔面に、Jの右ストレートが炸裂する。
「ぐあぁ!げふぅッ」
 Jの鋼鉄の拳で繊細な顔を砕かれたレオタ娘は、口から折れた白い歯と、血と唾液の混じった液体を吐き出しながら吹っ飛んで行き、冷たい床の上で昏倒する。
「もうお腹一杯って所だな」
 片目をつぶって笑うJの背後から、二人目のレオタ娘が鋭いパンチを突き出してくる。
「ええいッ!!」
「おっと!」
 Jは身を沈めてそのパンチをかわすと、レオタ娘の伸びきった腕を掴んで、逆一本背負いで強引に投げ飛ばす。
「うわああぁぁー!!」
 強引な態勢で無理やり投げられた為、レオタ娘の肩がみしみしと軋(きし)んだと思うと、肩の骨が砕け、腕の腱が引き千切れる。レオタ娘の身体は、悲鳴を上げる間も無くそのまま固い床の上に叩きつけられる。たっぷりと脂肪をつけた肉体が大きく震える。
「う、くうぅ…」
 激しい肩の痛みと全身を走る激痛のため、レオタ娘は呼吸も出来ずにうずくまったまま身体を震えさせる。
 その顔面を狙うように、Jの靴のつま先が飛ぶ。歯の砕ける鈍い音がして、唇を鮮血に染めたレオタ娘は完全に失神した。
「絵里!香織ぃ!」
 セミロングの髪を揺らし、小麦色の肌のレオタ娘が絶叫する。
「はっ!実戦部隊と言っても呆気ないもんだな」
「このぉ!甘く見るなぁ!」
 レオタ娘は怒りに燃える瞳をJに向けたまま、突っ込んでくる。
「おっ!やる気満々だな。じゃあこっちもいくぜ!レディ…ゴー!」 
 Jは、四肢に力を込めて身を深く沈める。陸上のスタートの様な格好をすると、猛然とダッシュする。爆発的なパワーが一気に開放されて、うなりを上げるJのショルダータックルがレオタ娘の身体に激突する。
「ぐわッ!きゃあああぁあっ!!」
 レオタ娘の小柄な身体は、ボロキレの様に軽々と吹き飛ばされる。「ドガァッ!」そのまま5、6メートル吹き飛ぶと近くの壁に、派手な音を立ててぶち当たる。
「俺のタックルの威力には、プロフットボーラーも真っ青だぜ」
「うっ!…うぅ…」
 レオタ娘は、身体がバラバラになりそうな程の苦痛に顔を歪ませる。Jのタックルをもろに受けた胸部と激しく強打した背中に、焼け付くような痛みが走る。口から漏れる荒い呼吸が、身体を大きく上下させる。
「これでゲームセットだ!」
 Jは壁に身体をもたれさせたまま苦しげに喘ぐ、レオタ娘の胸板に捻りを入れた掌底(しょうてい)を打ち込む。(掌底とは、手の平の肉厚の部分で相手を打つ打撃方法だ。拳での攻撃より掌底の打撃の方が、相手に与える衝撃力は多い。掌底は身体の表面よりも内部に大きなダメージを与える。しかも、Jの豪腕から繰り出される破壊力は、想像を絶する)
「あううぅっ!」
 Jの手の平にレオタ娘の張り詰めた乳房の柔らかい感触が伝わる。激しく突き出された掌底に、レオタ娘の丸く張り出した形の良い乳房が、無残に押し潰される。掌底の衝撃力は身体の内部にも深刻な影響を与える。胸骨は破壊され乳房の内側の肋骨は陥没したかのように粉々に砕け散っていた。
「ひうん!」
 レオタ娘は心臓に響く鋭い痛みに、悲鳴を上げる。恐らく砕けた肋骨が、心臓に突き刺さったのだろう。レオタ娘は自分を待ちうける「死」と言う運命を悟ると顔を蒼白にし、泣き出しそうな顔になった。歪められた瞳に大粒の涙が溜まる。「むぐうぅ…」身体の中から込み上げてくる血の塊を感じると、慌てて吐き出そうとするが、大量の血は咽喉(のど)を塞ぎ、激しくせき込む。
「ごほぉっ!げほっ、ぐふうぅっ!!」
 レオタ娘は身体を踊らせるように鮮血を吐き出し続けると、胸を両手で抱きしめるようにしたまま、うつ伏せに倒れ込んだ。口のまわりとレオタードが自らの血で真っ赤に濡れている。
「ご、ごめん……カタキ…討てなかったよぉ…」
 レオタ娘は、すべてを吐き尽くすとゆっくりと目を閉じる。
 凄まじいまでのやり口だった。Jは、ファングの連中には一切容赦はしない。一瞬の甘さが命取りに成る事を、身をもって知っていた。
「これで三人か……うおッ!?」
 呟くJの背中に殺気のこもった視線が突き刺さる。Jは反射的に身体を真横に倒れこませていた。その瞬間、「ザシュッ」鋭い耳障りな音と共にJの背中のナップサックが、ズタズタに切り裂かれる。まさに間一髪だった。ホッとするJの背筋に、冷たい汗が流れ落ちる。
「ふうッ!危ない所だったぜ」
 片膝を立てて起き上がるJの視線の先には、頭に大きなリボンを付けて、両手に鉄の爪を装備したレオタ娘が立ちはだかっている。獲物を狙う瞳がギラギラと輝いている。可愛らしい顔にはまるで相応しくない。
「死ぬです!」
 短く叫ぶと、猛然と飛びかかって来た。敏捷に左右に飛びはねながら、ジグザグに接近してくる様は野生の山猫のようだ。両者の距離が零になるとレオタ娘は、左右の爪をJに振り下ろす。Jは流れるような爪の斬撃を巧みにかわして行く。レオタ娘のバネのような筋肉が躍動し白いハチマキが波のように揺れる。緊迫した攻防が終わると両者はお互いに距離をとる。
「なかなかやるです!こっちもやり甲斐があると言うものです!」
 レオタ娘は荒い呼吸を整えながら、嬉しげに顔を微笑ませる。だいぶスタミナを消費したらしく全身からは珠の様な汗がしたたり落ちている。だが、一方のJはたいして汗もかいておらず、涼しげな顔をしている。恐るべきスタミナの持ち主だ。
「いいかげんに諦めるです!」
 レオタ娘は助走を取って高々と舞い上がると、Jに必殺の一撃を繰り出そうとする。
「随分とヤンチャな女の子だこと!しかし…俺のお気に入りのバックをこんなにしてくれちゃって…そんなに欲しけりゃくれてやる!」
 Jは背中のナップサックを手に取るとレオタ娘に向かって、思いきり放り投げる。
「無駄なあがきです!」
 レオタ娘が両腕の爪を交差させると、宙に浮かんだナップサックが紙くずの様に切り裂かれ、中身が床に散乱する。
「!? どこに消えたです!」
 レオタ娘が床に着地するとJの姿は消えていた。慌ててJの姿を捜そうとするレオタ娘の背後から男の声がする。
「こっちだぜ、お嬢ちゃん」
 そう言うなりJはレオタ娘の股間に手を差し入れて、高々と抱え上げる。Jの手の平に秘部の割れ目の形がはっきりとわかる。
「きゃッ!な、何するですか!?離して下さいですぅ!!」
 レオタ娘は、いきなり乙女の一番大切な所をつかまれた恥ずかしさに顔を耳たぶまで真っ赤に染める。
「うーん、いい感触!よし、このまま天国に送ってやるぜ!」
 細身の身体をジタバタとさせるレオタ娘を、頭の上にまで持ち上げると一気に下へ叩き落とす。その下にはJの膝(ひざ)が待ち構えていた。アトミックドロップ(骨盤割)を仕掛けたのだ。
 レオタ娘の桃のような双尻の間にJの鋼の膝がえぐり込まれる。「ゴキィ!」尻を叩きつける音と共に骨盤が壊される嫌な音が混じる。
「ぃぅううッ!…痛い…お尻が痛いです!!」
 レオタ娘はお尻に走る電撃のような痛みに、全身を大きく悶えさせる。肉付きのよい尻にはJの膝が深々と突き刺さっている。
「おっとッ、悪かったな。腰は女の子の大切な場所だったよな…お詫びに楽にしてやるよ!」
 Jは、ガックリとうなだれるレオタ娘の腰に両手を回すとそのまま真後ろ投げつける。「ドゴォ」岩石落としの要領で投げられたレオタ娘は固いコンクリートの頭と背中を強打した。
「えぐぅッ!お見事です…葵のま…負けです…うッ!」
 最後の力を振り絞って言葉を吐き出すと、レオタ娘は力尽きる。頭からは真っ赤な血が流れ出していた。
「やあぁぁぁッ!!」
「くそおッ!よくも!」
 休む間も無く二人のレオタ娘が襲い掛かってくる。
「やれやれ……忙しいこった!」
 Jは呆れたような表情で両手を広げる。
「はあぁぁッ!」
 レオタ娘が軽やかに跳躍し、空中で華麗な二段キックを繰り出す。もう一人のレオタ娘はJの股間を狙って蹴り上げてくる。Jは二段キックを紙一重の所でかわし、股間を狙う蹴りを両手を交差させる十字受けで防ぐ。
「チッ!」
「悪くない蹴りだが…俺には通用しねえよ。どれ、本物の蹴りって奴を見せてやるぜ」
 着地したレオタ娘に、Jの旋風のようなハイキックが飛んでくる。
「うッ!くうあぁ!?」
 レオタ娘は、咄嗟(とっさ)に、Jの蹴りをガードしようとした。「パシィィン!」物凄い音と共にレオタ娘の手首の篭手が弾け飛ぶ。余りの威力に耐えきれなかったらしく、身体を仰け反らせると腕がブルブルと痙攣する。
「な、何て蹴りなの…くうッ!」
 どうやら手首の骨が折れたらしく、レオタ娘は手首を押さえながら痛みに顔をしかめる。
「顔のガードがお留守だぜ」
 Jは音も無く接近すると二本貫手(にほんぬきて、指二本での指突き)で、レオタ娘の瞳を狙う。「うッ?」レオタ娘は、ハッとすると身動き一つしないまま棒立ちになる。Jの指は大きく見開かれた瞳に吸い込まれていった。Jの指に弾力のある球体が潰れるような感触が走る。
「ひっ!?いやあああぁぁっ!」
 Jがレオタ娘の瞳から指を抜き出すと大量の鮮血が吹き出し、レオタ娘の頬を流れ落ちる。抜いた指にはレオタ娘の赤い血がベッタリと付着していた。
「うわああぁぁ!なんにも見えないよー!」
 血の溢れる出す瞳を両手で押さえながら、床に座り込むと泣き叫ぶ。
「うかつに気を抜くと大怪我するぜ」
 もう一人のレオタ娘に向き直ると血のついた指をかざす。
「くっ!もう絶対に許さないんだからぁ!」
 レオタ娘はJに向かって猛然と走り出すと飛び膝蹴りで顔面を襲う。「おっと!」Jはレオタ娘の攻撃を軽々と避ける。
「まだまだぁー!!」
 レオタ娘はさらに、後ろ向きの態勢からバックブローを浴びせ掛ける。
「いただきィ!よっとっ!」
 Jはバックブローを手で受け止めるとレオタ娘の背後に回り、そのまま後ろ手に絞り上げる。
「あっ!くうぅ…い痛い…離せぇ…」
 レオタ娘は、腕の関節を絞られる痛みに髪を振り乱す。Jの鼻にレオタ娘の髪のシャンプーの香りと少女特有の甘い匂いが入り込む。
「うーん、いい匂い!」
「なっ!?この変態!離しなさいよ!」
「そうはいかないな。じゃ、腕一本貰うぜ」
 Jの言葉にレオタ娘の体がビクッと強張る。今までのやり口から見て嘘とは思えない。
「嫌ぁ!!止めてぇ!お願い…」
 レオタ娘は顔色を変えて、必死に懇願する。剥き出しの背中に汗がジワリとにじんでくる。
「いくぜッ!」
 だが、Jは、躊躇(ちゅうちょ)する事もなく一気に力を込める。レオタ娘の肘関節がみしみしと悲鳴を上げる。さらに力を入れると耐えきれなくなった靭帯が、「ブチッ!」と裂ける音と共に断裂する。
「うわああぁぁん!だ、ダメェ!」
 レオタ娘が堪らずに悲鳴を上げる。その直後、レオタ娘の細い腕の内部から肘関節が砕ける重苦しい音が聞こえてきた。
「っ……ふ、ぐぅっ…うぁぁ…」
 レオタ娘は、自分の腕が完全に破壊された事を知ると意識を失いJの胸板にぐったりと寄りかかる。Jが砕けた腕から手を離すとズルズルと滑り込み、Jの足元に仰向けに転がる。
「おぉ!?」
 レオタ娘の身体が「ブルッ」と震えたかと思うと股間に黒々としたシミが広がり、見る見る内に濡れていく。どうやら余りのショックに失禁してしまったらしい。流れだした熱く黄色い液体をコンクリートが吸い取っていく。
「お子様にはちょっとばかし刺激が強すぎたみたいだな…」
 Jは失禁したレオタ娘を見て、気の毒そうにつぶやく。
「次は私が相手よ!」
 背中まで伸びるポニーテールを揺らしながら、レオタ娘が挑んでくる。
「どこからでも掛かって来な!」
「ええいっ!!」
 大きく振りかぶったパンチを思いきり突き下ろすが、Jは簡単にパンチを避ける。
「あっ!?」
 レオタ娘は前のめりバランスを崩すと、Jの目の前に形のいい大きなお尻を突き出す。
「あんたいいケツしてんなー、思わずいじめたくなるぜ!」
 レオタ娘の肉付きのよい尻に、Jの鞭のようにしなる蹴りが飛ぶ。「ピシィィンッ!」空気を切り裂くような乾いた音と共に、レオタ娘の尻タブが波打ちブルブルと震える。白い尻タブは見る見る内に腫れあがり、真っ赤な林檎(リンゴ)のようになった。
「きゃんッ!痛ったぁ…」
 腫れ上がった尻をさすりながら、Jに怒りと羞恥心の混じった眼差しを向ける。
「いやー、目の前に、随分と蹴りがいの有りそうな尻があったもんでね」
「このスケベ!!」
 怒りと恥ずかしさに顔を真っ赤に染めたレオタ娘が、Jに嵐のような攻撃をしてくる。
「えいっ!やああぁぁぁっ!!」
 レオタ娘の怒りにまかせた連続攻撃を、Jは左右に重心移動しながら余裕でかわす。レオタ娘が攻撃を繰り出す度に、長いポニーテールが大きく揺れ動き、豊満な乳房と双尻が上下に弾ける。Jはレオタ娘の気合のこもった回し蹴りをかわすと、がら空きになった無防備な腹部に狙いをつける。
「おっとッ!ボディーが隙だらけだ」
 Jは身体を低く沈めると、レオタ娘の引き締まったお腹に渾身のボディーブローを突き入れていた。Jの拳はレオタ娘の鍛えられた腹筋を引き裂き、柔らかい肉の中に手首までズッポリと埋まっている。
「ぐうぅ…」
 レオタ娘は声にならないうめき声を咽喉の奥から絞り出す。大きく見開かれた瞳からは涙が溢れだし、だらし無く開かれた唇からは血の混じった唾液が大量に溢れ出す。Jが拳を引き抜くと、レオタ娘はうつむいて、そのまま倒れ込もうとする。
「まだ、お寝んねするのは早いぜ」
 倒れ込もうとするレオタ娘の顎(あご)を、Jの強烈な膝が突き上げる。「グシャッ!」レオタ娘の顎が激しくかち上げられ、鈍く砕けた感触が伝わる。
「がはぁッ!」
 レオタ娘は口から血と唾液を撒き散らし、頭からうつ伏せに崩れ落ちる。顔面を床に押しつけて、お尻を高々と突き上げた姿勢のまま背中を大きく震わせると、レオタ娘の口から胃の中の内容物が大量に吐き出される。胃袋が破れているらしく床の上に吐き出される内容物には、大量の血が混じっていた。「ぐうッ!うえぇ…」苦しげに吐き出す度にレオタ娘の背中がビクビクと震え、突き上げられた尻が引きつるようにくねる。全身からは大量の脂汗が滲み出しレオタ娘の身体を妖しく光らせている。
「こりゃ、当分はメシも食えなそうだな。まあニ、三ヶ月は流動食生活する事になるだろうなぁ」
 Jはレオタ娘の汗でベッタリ濡れた背中を、気の毒そうに撫でる。
 既に、七人のレオタ娘を倒していたが、Jの強靭な弾力を備える五体は、疲れを知らない。いや、むしろ闘争への本能が身体中の血潮を沸き立たせ、五体に生気がみなぎって来るのを感じていた。
「坂本三姉妹、参る!」
 そのJの前に、凛(りん)とした口上と共に三人のレオタ娘が立ちふさがる。
「長女、美冬!」
「次女、若菜!」
「三女、尚美!」
 口々に名乗りを上げると、Jを取り囲むように三方から円陣を組む。
「へぇ、三位一体って訳か…」
「あなたをここで、仕留めさせてもらいます」
 長女の美冬が涼やか口調で宣言する。たっぷりとした長い黒髪が特徴的な、かなりの美少女だ。
「死んでもらう!」
 冷たく光る切れ長の瞳をJに向けると、若菜は背中に背負った大太刀を、ゆっくりと鞘から引き抜いた。自分の身長の半分以上もある刃渡り四尺(約120cm)の長大な刀を八双(はっそう)に構える。
「ふふん♪ボクのトンファーの餌食にしてあげるよ。お・じ・さ・ん♪」
 ショートカットの尚美は小生意気そうな顔をニコニコとさせながら、Jの様子をうかがう。両手には、黒光りする鋼鉄製のトンファーを携えている。
「随分と物騒な姉妹だなあ。いいぜ!まとめて相手してやるよ。せめてフォーミングアップくらいには、楽しませてくれよ」
 高揚する血潮を押さえながらJは、三姉妹を挑発する。
「言ってくれるわね。じゃあ、たっぷりと満足させてあげる」
 美冬はそう言うと同時に、空気を切るような鋭いパンチを連続して放ってきた。
「おっとッ!」
 Jは余裕を持ってかわす。美冬はさらに、Jの足を狙うローキックと、顔面を狙う素早いジャブのコンビネーションを巧みに繰り出してくる。だが、歴戦のJの目にはスローモーションのようにしか見えない。最後に、唸りを上げるアッパーがJの鼻先をかすめていく。
「大きな事を言った割には、この程度かい?」
「ふふッ」
 だが、美冬はニヤリと笑っている。
「キエエェェイッ!!」
 Jの真横から凄まじい殺気と共に、光の閃光が飛んでくる。
「うッ!?」
 若菜の必殺の一撃だった。Jは条件反射的に辛うじて避けることが出来たが、勢いの乗った剣先はJの頭上のすぐ上を通過して行く。「やあぁッ!」若菜は手首を返し刀を戻すと、真下から逆袈裟に切り上げる。重い大太刀を軽々と操る所を見るとかなりの手練を積んでいるのだろう。Jは態勢を崩しながらも、何とか攻撃を避けていたが、ジャケットの左肩がザックリと裂けていた。切っ先が僅かに掠ったらしく肩から流れ出す血が手をぬめらせる。
「ふう…危ない所だったな…ぐッ!」
 「ゴンッ!」息をつこうとするJの後頭部に重い打撃の感触が響く。
「ボクを忘れてもらちゃ困るよ」
 不敵に笑う尚美が続けて、重いトンファーを振り上げてくる。Jは、軽い脳震盪を起こしながらも何とか尚美の打ち込みをかわすと態勢を整え様とする。
「なかなかやってくれるな!ん?なんだ!」
 「ヒュン、ヒュン!」空気を切る音がして、鈍く光る物体がJを目掛けて飛んでくる。Jが身体を左右にスライドさせて避けると、その物体が床に突き刺さっていた。形から想像すると、どうやら手裏剣と言うやつ見たいだ。知識としては知っていたが、実際に見たのは初めてだ。
「はッ、はッ、はぁッ!」
 手裏剣を投げているのは、美冬だった。篭手の内側から棒手裏剣(短い棒の形の手裏剣)を抜き出し、次々と投げつけてくる。美冬の狙いは正確だった。J程の身体能力の持ち主でなければ、とっくに殺られているだろう。加えて他の二人の攻撃もかわさなければならない為に、反撃のゆとりさえなかった。
(こいつら恐ろしい程に呼吸がピッタリだ。腕の方も他の奴らよりか一枚上手のようだな。それにしても、ここまで正確に合わせて来られると反撃も難しいぜ。何とか、人数を減らす事さえできりゃ……よし!見よう見真似でやって見るか)
 Jは即座に思考を終えると、飛んでくる手裏剣に神経を集中させる。五感の集中が頂点に達すると同時に、Jは行動を起こしていた。「バシッ!」飛んでくる手裏剣を素手でキャッチする。常人の域を超えた神業だと言える。
「ば、馬鹿な!?」
 美冬が目を白黒させて驚愕する。Jはキャッチすると同時に美冬に向けて、手裏剣を放っていた。
「え゛ッ、うぅ!?」
 Jの手から放たれた手裏剣が、光の孤を描いて美冬の胸に命中する。「ズブッ!」薄い布から浮き出している乳首の辺りに、棒手裏剣の鋭く研ぎ澄ました切っ先が食い込む。突き刺さった反動でたわわな乳房がブルブルと震え、波紋をたてる。
「そ、そんな…ぐふぅッ!」
 レオタードが鮮血で赤黒く染まり、押さえている両手の間からも、血が止めど無く流れ落ちてくる。美冬はその場に両膝を付いて座り込むと、咽喉の奥から血を溢れさせた。
「お姉さま!」
「美冬お姉ちゃん!?」
 若菜と尚美は、意外な事態に驚きの声を上げる。
「へへッ!以外と出来るもんなんだな。勉強になったよ」
 額の汗を手の甲で拭うと、得意げに笑う。
「貴様あぁぁッー!」
 若菜は瞬時に間合いを詰めると、烈迫の気合と共に上段から白刃を振り下ろしてくる。
「勉強ついでにこいつもやってみるか!」
 Jは、スピードに乗って振り下ろされる大太刀に神経を集中させると、両手を大きく広げる。がら空きの頭部が無防備になった。
「うりゃああぁぁッ!!」
 「パシィッ!」天をつんざくような気合の叫びがしたと思うとJの両手の間には、若菜の白刃が挟まれていた。Jは大太刀の軌道を見きり、一瞬の内に素手で受け止めたのだ。
「真剣白刃取りってな!」
「な……くッ!は、離せぇ!」
 若菜は感嘆の声を上げて動揺していたが、気を取り戻すとJの手から刀を引き抜こうとする。
だが、Jの万力のような腕力には、ビクともしない。
「はあぁー、フン!」
 「パキィン!」Jが両腕に力を込めて、刀を横に捻り上げると白刃が真っ二つに折れた。
 Jは、折れた刀身を見つめながら、あ然とする若菜の白い首筋に、冷たく光る刃をピタリと押し当てる。
「ひッ…!」
 氷の様に冷たい刃の感触に短い悲鳴を上げる。もはや凍りついたかのように、身動き出来なくなった若菜の全身に冷や汗が流れ落ちる。
「あぅ……ハァ…ハァ…」
 若菜は自分に忍び寄る死の緊張に呼吸を激しく乱す。「ブルッ」身体を一瞬、震わせたかと思うと、僅かに失禁したらしく若菜の内股が黄色い液体で濡れていた。尚美も固唾を飲んで見守っている。若菜が何かを訴えるような目でJを見つめるが、Jは躊躇(ちゅうちょ)する事なく、一気に刃を切り下げる。
「う…く!やあぁん!」
 若菜は首筋から右の乳房までを一気に切り裂かれ、激しく身体をくねらせる。レオタードが大きく裂けて、よく熟れた果実のような乳房と桜色の乳首が白日の下に晒される。若菜の乳房はパックリと開いた傷口から白い脂肪を見せていたが、赤い点が浮かんだと思うと、大量の血液が溢れだす。「ドバッ!」頚動脈を切断された首筋からも噴水のように鮮血が吹き出し、雪のように白い身体を赤く染めていく。
「ひッ……はぁ…いや……ぁ…」
 若菜は血の吹き出している首筋を両手で押さえたまま、ガックリと腰を落とすと、声にならないうめきを上げながら身体を床に横たえる。
「さてと…後はお前だけだな」
 Jは、若菜の凄惨な死に様を見て、顔を真っ青にしている尚美にクルリと向き直る。
「ボ、ボクがお姉ちゃん達の敵を討ってやる!」
 尚美は恐怖を打ち消すかのように気合を入れると、トンファーを構えて肉薄して来た。
「やあぁッ!」
 尚美は身体をコマの様に回転させて、風車式にトンファーを打ち込んでくる。なかなかの攻撃だが、たった一人では最早(もはや)Jの敵ではない。孤を描いて、繰り出されたトンファーを片手で掴んで、尚美の動きを止める。
「さっきは、随分とお世話になったな。効いたぜ」
 そう言うとJは、掴んでいた鋼鉄製のトンファーを飴のようにグニャリと曲げてしまった。まるで超能力かマジックショーを見ているかのように、いとも簡単に曲がった。
「ば、バケモノぉ!」
 青白く引きつった表情で、うわずった悲鳴を上げる。
「はッ!最高の誉め言葉だよ!」
 「グォ!」空気を震わせて、Jの右フックが尚美の頬に打ち込まれる。
「うぶっっ!!」
 Jの拳が柔らかい頬にめり込むと、唾液を吐き出しながら、尚美の顔が右側に吹き飛ばされる。「バシィン!」尚美の顔が戻って来た所に、今度は左フックが襲い掛かる。
「あぶぅっ!」
 尚美の顔が打ち抜かれ、血の泡を吹き出しながら大きく振られる。上体がグラリと崩れて全身からコンニャクの様に力が抜けた。
「ぐッ…うぇぇ…」
 だらりと開いた口から血の混じった唾液と共に、折れた奥歯が何本か糸を引いて吐き出されて行く。尚美の顔はパンパンに膨れ上がっており、美しい顔の原形を留めていない。顔は頬をつたう涙と溢れ出す鼻水でべチョべチョだ。
「こいつで最後だ!」
 Jの手刀が、尚美の首の付け根と鎖骨の間に放り込まれる。「ビシィ!」鋭く叩き下ろされた手刀が、尚美の細い鎖骨を叩き折り、首筋に深々と突き刺さる。
「えうッ!し、死んじゃうよぉ…ひっくッ」
 腫れ上がった瞳から最後の涙が湧き出すと同時に尚美は意識を失い、冷たい床の上にドサリと身体を投げ出す。苦痛の為か全身が小刻みに震えていた。

「ふうー、久しぶりに苦戦しちまったな。良い闘いだったぜ」
 返り血と汗で濡れたコンバットジャケットを脱ぐと床に投げ捨てた。何ヶ所も裂けているジャケットが戦闘の激しさを物語っていた。
「くうぅ……と、止めを…うっ、ハァハァ…」
 長女の美冬が苦しげに息を喘がせたまま、Jに懇願する。美冬は致命傷を負った自分の命が、助からない事を知っているようだ。押さえられた乳房からは止め処なく鮮血が溢れだし、脂汗まみれの顔には死相が浮かんでいた。
「わかった。今、楽にしてやるよ」
 Jは若菜の血をタップリと吸った刃を手にすると美冬に歩み寄った。
「か、かたじけない…」
 静かに目を閉じて、最後の瞬間を待つ美冬の後ろに立つと、剥き出しの背中に冷たい刃を思いきり突き入れる。美冬は、白い背中に背骨をクッキリと浮かばせる程に、大きく身体を仰け反らせる。Jがそのまま一気に尻の辺りまで刃を切り下ろすと、ビクンと動きが止まり心臓の働きを停止させた。
「あの世で姉妹仲良く暮らすんだな」
 足元で最後の痙攣を繰り返す美冬を見下ろして、Jはつぶやく。辺りには三姉妹の血の香りが、むせかえる様に漂っていた。
「さあ、後はお前さんだけだぜ」
 Jは、残る最後のレオタ娘に視線を移動させた。
「くうぅ…まさか私達実戦部隊の精鋭が、貴方一人に全滅させられるなんて…」
 おさげ髪の少女が、信じられないと言った面持ちで言葉を詰まらせる。
「へへ、相手が悪かったようだな。不死身のJ様を怒らせたお前らが悪いんだ」
「J!?ま、まさか…あのウインド最強の男の……」
 少女が驚いたように目を白黒させる。
「おっ!知っているのか?どうやら俺は有名人のようだな。うれしいぜ」
「それだったら納得いくわ…私達が十人やニ十人、束になってもかなわないでしょうね」
「よくわかっている見たいだな。ん?そーいやぁ、あいつは何処に行ったんだ?」
 七海の姿がない事に気がついた。
「七海ね?あの子だったら、「ファング」様の所に行くように命じたわ。今ごろ学校を出て、報告に向かっているはずよ」
「チッ!やられたな、こりゃ手っ取り早く蹴りを付けなきゃ行けないようだ」
 苦々しくため息を尽きながら、手をボキボキと鳴らす。
「簡単に行くと思ったら大間違いよ!この実戦部隊副隊長の竜造寺千里(りゅうぞうじちさと)が貴方のお相手をさせて貰うわ!」
 千里はそう言うと、身に纏ったレオタードを脱ぎ捨て裸体を露にする。脱いだ勢いで千里のはちきれそうな乳房がたわわに揺れる。張り出した乳房の上にはツンと尖った桜色の乳首が顔を見せている。ウエストには無だな肉は一切付いておらず、鍛えられた体の線とあばらをクッキリと浮かばせていた。唯一身に付けている物と言えば、辛うじて秘部を隠している一枚のビキニパンティのみだ。極薄の布は秘部の割れ目の立て線をハッキリと見せていた。
「おいおい、何の真似だ。お色気作戦のつもりか?生憎、俺にはそんなもの通用しないぜ」
 Jは、千里の突然の行動に困惑した。
「もちろん、そんなつもりじゃないわよ。裸になったのは竜造寺家に代々受け継がれて来た、竜造寺流武術を完全に使いこなすためよ。竜造寺武術は己の身体が限りなく無防備な状態の時にこそ本領を発揮するの」
「へぇ…そんな武術があったとは嬉しい限りだな。オッパイの形が変わっても文句言うなよ」
「覚悟の上よ。でも、貴方の顔の形が判別出来ないくらい変わっちゃうかもね…」
 千里の黒めがちの瞳が燃える様に輝き、露な裸体から殺気がみなぎる。
「やる気満々だな…じゃあこっちからいくぜ!」
 Jは駆け出すと、千里の身体目掛けて強烈な浴びせ蹴りを放った。
 「ビュンッ!」唸りを上げる蹴りが、千里の裸体に命中するかと思った瞬間、千里の姿が影のように消える。
「何!?消えたぁ?」
 Jが千里の姿の行方を追う。
「ふふッ、こっちよ」
 「ガッ!」千里の声と共にJのテンプルに、鋭い肘打ちが炸裂した。
「うおッ!そっちかッ」
 Jは頭に響く痛みを堪えながら、千里にパンチのコンビネーションを連続して繰り出す。だが、Jの攻撃は、千里に当たるか当たらないかの直前で、巧みにかわされる。
「無駄よ!今度はこっちの番ね」
 千里は影のような足運びでスルスルと接近すると、Jの腹部に手首を思いきり回転させた、弾丸の様なパンチを打ち込む。
「ぐおッ!」
 凄まじい威力の一撃は、Jの鋼の如き肉体に突き刺さり、確実にダメージを与える。
「どう?竜造寺流「竜神殺し」の威力は?」
 豊満な乳房をブルブルと震わせて距離を取ると、自信有りげに問い掛ける。
「効いたぜ…凄げぇ威力だ。腹の底まで響きやがる」
 Jの額から一筋の汗が流れ落ちる。
(こいつの足の運び方は、日本の古武術に伝わる影足って奴か…。だとすると厄介だな。影足をマスターするには、相当の修行を積まなけりゃならない。かなりの使い手だな。だが、この技にも攻略方は有るんだ。もう何年もやったことはないが…いっちょ試してみるか)
 Jは両目を閉じて五感の神経を集中させる。手はダラリと下げたままだ。
「どうしたのかしら、もうあきらめたの。だったら貴方を地獄に送ってあげる」
 千里は、Jの構えを見ると拍子抜けしたような表情になったが、ニヤリと笑うと猛然と襲い掛かって来る。
「竜造寺流「風塵」!」
 千里は竜巻のような勢いの蹴りをJに打ち込んだ。だが、Jの身体は流れるように揺れ動き、唸りを上げる蹴り足を軽々と受け流す。
「かわされた!?」
「そこだッ!」
 動きの止まった千里の左乳房にJの鉄拳がめり込む。「ピシィン!」張り詰めた乳房が大きく弾け、Jの手の甲に柔らかい脂肪の感触と勃起した乳首の固さが伝わる。千里の細かい汗の飛沫が、Jに降りかかる。
「うッ!くあぁ…」
 千里が大きく弾けた乳房を押さえて、顔を苦痛に歪ませる。唇からは、薄っすらと血が滲んでいた。
「いけぇ!」
 休む間も無く、Jの風車の様な下段蹴りが、動きを止めた千里の太股に命中する。「バキィ」鈍い音を立てて厚い肉の下で、骨の砕ける異様な音がした。白い太股は、真っ青に内出血を起こしている。
「痛ッ!くうぅ…あ、足が…」
 千里はへし折られた太股を抱えながら片膝を付いた。
「これで…お前の動きは封じたぜ。形勢逆転だな」
「うぅ…ま、まだまだぁ!はああぁぁッ!」
 自らに気合を入れるように叫ぶと、千里は太股の痛みを堪えながら、果敢に攻撃を繰り出してくる。身体を素早く動かす度に重い乳房がユサユサと揺れ動き、甘美な光景をJの目の前に展開させる。Jはその乳房に、剃刀のように鋭いジャブを数発炸裂させる。
「あッ!ああんッ!」
 「ビシィ!」千里の乳房が大きく歪み、形を変えていく。「ザクッ」Jの拳圧の鋭さによって柔らかな乳房の肉がパックリと数カ所、裂ける。
「きゃうッ!」
 千里は血に染まった両乳房を手で抱えようとする。
「甘いな、隙だらけだぜ」
 全身に力を込めると、無防備になった千里の剥き出しの腹部に、捻りを入れた重い拳をぶち込む。へその下辺りにズッポリとめり込んだ拳は、内臓に大きなダメージを与えたはずだ。
「ぐえぁッ!ぷうぅ…」
 口を大きく膨張させて血の混じった唾液を吐き出す。千里の固く閉じられた瞳から溢れた涙が頬を流れ落ちた。千里の顔面が、Jに打って下さいとばかりに突き出される。
 その顔面の真ん中に稲妻のようなストレートが容赦なく飛ぶ。
「うわあああぁぁッ!」
 千里が口と鼻から血を吹き出しながら吹っ飛び、固い床の上に叩きつけられる。仰向けに倒れた千里の身体は、全身アザだらけになっていた。
「もう終わりかな?」
 Jが倒れた千里を見つめながら聞く。
「ふ…うぅッ!ま、まだ終わらない!」
 千里は満身創痍の身体を気力を振り絞って立ち上がらせると、口の中から折れた歯を何本か床の上に吐き出す。身体中から溢れる汗の飛沫が、床に滴り落ちていた。
「まだ立てるのか…尋常の精神力じゃないな」
「やあああぁぁーッ!!」
 千里は最後の力を振り絞って、再び攻撃をし掛けて来た。
「見上げたもんだ。俺も敬意を称して、最高の技を見せてやる!」
 千里の背水の陣のような、危機迫る攻撃を紙一重で見切りかわすと、全身のエネルギーを両手に込めて一気に打ち出す。
「五臓陰殺!」
 「五臓陰殺」とは、人間の五大臓器である、肺臓、心臓、肝臓、脾臓、腎臓に、全身の気を込めた必殺の一撃を打ちこむ暗殺拳である。この技をまともに受けた臓器は、粉々に破壊され、相手を身体の内側から死に至らしめる。
 Jの拳は千里の五つの臓器の上を的確に突いていた。肉を殴りつける乾いた音と共に、千里の身体が波打つように震えた。
「きゃああああぁぁぁーッ!!」
 甲高い悲鳴を上げながら冷たい床の上に倒れ伏すと、全身を小刻みに痙攣させる。深々と突かれた肉体の上には、Jの拳の跡が五ヶ所、黒く浮き出ていた。
「うッ……あぁ…ゴホッ、ゴホッ!」
 千里の全身に今まで感じたこともないような激痛が走る。千里は口から大量の赤黒い血を吐き出すと、負った傷が致命傷である事を悟った。感じた事のない違和感が、全身を支配してゆく中で、千里の意識は完全に途切れた。
「これで…本当に終わったな…さて、リックを捜さなきゃな」
Jの周りには、大勢のレオタ娘達が、無残に倒れ伏していた。

「うッ…う、うぅ」
目に差込んできた眩しい光に男が目を覚ます。
「よう!リックお目覚めかい?」
「ジャックか…やっぱりお前が来てくれたんだな…」
 リックは、血に濡れる顔をほころばす
「しかし、随分と派手にやられたもんだな。顔の見分けが付かなかったぜ」
「へッ!男前が台無しになっちまった。それより俺の敵は討ってくれたかい?」
「ああ、嫌って程、お見舞いしてやったぜ!」
「そうか、これで少しはスッキリしたな。それにしても、相手がよりにもよってジャックとは、運のない連中だな」
「おいおい、助けてもらって言う言葉かよ」
「ハハ…それもそうだな…」
 Jとリックは、お互いの顔を見ながら微笑みあった。

END


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